”ざわめき”による存在の確立

 「エレキギターは楽器である前に、機械でもあるのだ。
 そんなふうにいうのは、私が足繁く通う楽器屋茶房―読んで字のごとく茶店が併設されている楽器店―の店長であった。この格言とも箴言ともつかない至極常識的な物言いは、しかしつい先般エレキギターを習い始めたばかりの私にはまだその本質を捉えかねるものであり、ともすればエレキギターの存在そのものを揺るがしかねない由々しき言説へと変換されてしまうのであった。私にとってエレキギターとは、次々に生起するいわれもない感情を鎮めるトランキライザーのようなものであり、そして「どうして音が鳴るのか分からない」不思議なブラックボックスでもあったからだ。
 平行線をなす六本の弦からあらゆる音色のメロディを生起することができる不思議な楽器。けれど、その六つの琴線がなくなってしまえば、いくつかのマイクと簡単な電子回路を擁した筐体へと姿を変えてしまい、ジャックポッドやピックガード、ピックアップやセレクターなどあらゆる部品を引き剥がしたそれは、まさしく何の物でもないただの「木」であった。
 私は初めて、エレキギターが変哲な機械によって動いていることを知った。

 夭折のギターヒーローも、かつてはそれを知らなかったのである。
 六本の弦からどのような回路をたどり、変換され、そしてアンプから音が拡声されるのか、10Wのミニアンプから拡声された “ざわめき” にただ興奮していた頑是ない少年には決して知る由はなく、ましてや知ろうとも思わないのである。

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